ここではイーリアン・パイプスと言う名称について少し書いてみたいと思います。楽器の起源や歴史については他に詳細に述べたページもあると思いますのでここでは詳しく取り上げません。
現在の楽器の形が形成され始めたのは1760年頃からとされています。1900年頃までにTimothy Kenna,John Coyne,Maurice Coyne,Michael Egan,Colgan,Dennis Harringtonといった多くの著名な製作家が登場します。彼らは自らの作る楽器をUnion PipesとかGrand Union Pipesと呼んでいたようです。それ以前には単純にPipesとかIrish PipesとかIrish Organ Pipesという名称が使われていたようですが、現存する楽器も少なく色々な過渡的な構造の楽器も多く存在した事もあり明確な定義は困難な様です。
Union Pipesは現在、イーリアン・パイプスと呼ぶ楽器と基本的な構造は同じですが細い管の内径と均一なサイズの小さな指穴が特徴で倍音豊かな小さな音だったとされています。また楽器のピッチは様々で特定のピッチに合わせてというより17インチや16インチといった長さで作られていたと言われています。また基本的にはソロ楽器でした。ドローンはが3本(2~4本の例もあります)、レギュレータが3本(低いEの音を出すダブルベースレギュレーターも多く作られました)という基本構成もほぼこの時期に定着します。
1845年頃から発生した大飢饉により上記の多くの製作家も製作をやめたり、アメリカやオーストラリアへの移住を余儀なくされます。アイルランド国内では製作家がほぼ絶滅状態となり、演奏家も楽器のメンテナンスが出来なくなり(多くの演奏家が盲目だったことも大きな打撃を与えたそうです)、演奏の伝統も絶滅の危機に瀕します。
一方アメリカでは、パイプスの演奏も製作も新たな力を得て花開きます。アイルランドからフィラデルフィアに移住したTaylor兄弟は教会やコンサートホールといった大きな会場で演奏し、また他の楽器とも演奏する必要のあるプロの演奏家の需要に答え、音が大きく、他の楽器と同じピッチで演奏出来るように楽器を改良します。管の内径は太く、指穴も大きくなります。これが現在演奏されるコンサートピッチD管の基本となります。
アイルランドでパイプスが息を吹き返すのは1890年以降、Wexford出身のWilliam Rowsome、Cork出身のRichard O’Mealyが製作を再開してからになります。二人とも飢饉の間も演奏の伝統が細々と生き残っていた地域の有名な演奏家の家系出身で製作と同時に演奏活動の復興にも大きな功績を残します。そして彼らはアメリカで新たに開発されたコンサートピッチ管を作り始めます。
更にWilliam Rowsomeの息子Leo Rowsomeが父のビジネスを引き継ぐと彼はコンサートピッチD管を専門にしこれが完全にアイルランドで定着します。逆にUnion Pipesと呼ばれた楽器の特徴は姿を消して行きます。
Uilleann Pipesという名称は20世紀初頭にアイルランド国内で発生した自国文化を見直す運動の中で始めて付けられた名前で、当時主に演奏されていたコンサートピッチD管に対する名前だと言えます。このため研究家によっては20世紀に入って作られたワイドボアでDのピッチのみをUilleann Pipesと呼び、それ以前のボアと指穴の小さな楽器やそれをもとに作られた楽器はUnion Pipesと呼ぶべきだと言う人もいます。
それではUnion Pipesで奏でられた音楽とは、その音色とはどんなものだったのでしょうか?現在では当時の製作家の楽器を研究し復元する製作家も存在します。またCoyneやEgan、Kenna、Harringtonらが作った楽器を使っての演奏を耳にすることも出来ます。Seamus EnnisはCoyneのC#を、Willie ClancyはCoyneのB♭を使用した録音を残していますし、Ronan BrownはHarringtonのBと最近では非常に古いKennaを演奏しておりその演奏を聴く事が出来ます。しかし奏法はそれぞれの演奏家が築き上げた現代的なものであり、当時の音楽については謎に包まれたままです。
(参考文献)
A century of pipemaking,1770-1870:new light on the Kennas and the Coynes /Sean Donnelly
Chanter design&construction methods of the classic makers. /Geoff Wooff
Flat Pipes? A personal opinion(a little bit tongue in cheek)/Ken Mcleod